最近「やりたいことを仕事にしよう」「好きなことを副業にしよう」といった声をよく聞きます。
でも、やりたいことがない人は、どうやってそれを見つけたらいいのでしょうか?
この企画では、やりたいことを仕事にした人達にインタビュー。みなさんの「やりたいこと」探しをお手伝いします。
約1万人が体験! 浅草・墨田で人気のワークショップ講師
今回インタビューしたのは、墨田区にある「ちいさな硝子の本の博物館」のオーナーである村松栄理さん。
2011年から10年間、一人でお店を切り盛りしています。
――まず、『ちいさな硝子の本の博物館』について教えてください。
「名前の通り、ここはガラスの本を扱う博物館です。館内にはガラス関係の蔵書が850冊ほど所蔵されています。本は墨田区で創業したガラス工場『松徳硝子』※1で収集していた本を持ってきました。 本の展示のほかには、職人さん手製によるガラス製品の販売を行っていますね」
*工場は2020年冬に南千住へ移転しました
――お店をオープンしたきっかけはなんですか?
「わたしの父が当時、松徳硝子を経営していて。『工場に眠っているガラスの本の展示や、デッドストックの販売をしてほしい』という話を持ち掛けられたのがきっかけです。
ちょうどそのころスカイツリーが建設中だったこともあり『観光客需要を見込めるんじゃないか』『自分のお店って面白そう!』と思い、オープンすることを決めました」
――お店は村松さん一人で切り盛りされていますね。一人でお店をオープンすることに不安はありませんでしたか?
「一人って寂しいし不安もあるけれど、わたしにとっては気楽なんです。だから、話をもらった時も『自分のお店をやってみよう!』っていう好奇心の方が強かったですね」
父からの誘いで「ちいさな博物館」をオープンした村松さんですが、最初はなかなかお客さんを呼び込めませんでした。
「『ガラスの本の展示』と『ガラス製品の販売』だけだと、本当にガラスが好きな人しか来ないんですね。どうしようか困っていたら、近所の革細工のお店の人に『ワークショップをやってみたら?』ってアドバイスをもらったんです。
そのお店もレザークラフトのワークショップを始めてから、お客さまが増えたらしくて。お店のスペースや設備が限られている中で、自分にできることはないか。考えた結果『リューター体験』をやることにしました」
リューターとはガラスや木材を削る、ドリルのような機械。これを使って、グラスやコップに好きな絵や文字を入れていきます。
――ワークショップを始めた時の感触はどうでしたか?
「リューター体験を始めたばかりの頃も、やっぱりお客さまはすぐには集まらなかったですね。それに、ワークショップを始めたばかりの頃は、もうお客さまの接客だけで精一杯でした。
でも、接客に慣れてきた時に気づいたことがあったんです。それは『絵が苦手なお客さまは、下書きの段階で悩んでしまう』ということ。わたしは絵が得意な方なので、絵が苦手な人の気持ちを理解できていなかったんです」
そこで村松さんは、下書きの絵を増やしたり、絵のアドバイスをするようにしたのだそうです。
また、ワークショップをより良いものにするため、村松さん自身がほかのワークショップに参加したこともありました。
「何度かものづくり教室に行ったけれど、やっぱりお店によっては接客が良くない場所もありました。たとえば、わからないことがあっても、忙しそうにしていて『質問したら悪いかな』って空気を出している人とか。
逆に講師の人がサポートしすぎちゃって『もっと自分で作りたいな』って思うことがあったり、難しいですよね。お客さまになるとわかることがたくさんあって『お客さま側の気持ちに立つ』ということを意識するようになりました」
絵が苦手な人には優しくアドバイスし、自由に作りたい人はそっと見守るという接客を心がけるようにした村松さん。
ちょうどその頃「アソビュー!」というアクティビティサイトに登録したこともあり、ワークショップは徐々にお客さんが集まるようになったそうです。
――リューター体験はどんな人が遊びに来ますか?
「浅草・墨田観光に来たカップル、記念日に特別な体験をしに来た夫婦、おじいちゃん・おばあちゃんにプレゼントを作りに来たお孫さんまで、本当に色々ですね」
2012年にワークショップを始めて以来、今ではリューター体験は「浅草・墨田で定番の遊び」として知られるように。この10年間で、累計で1万人近くのお客さんが来店したそうです。
絵が好きで美大の道へ
――ではここで、村松さんの学生時代についてお聞きしたいと思います。学生時代は何を専攻していましたか?
「わたしは絵を描くのが好きだったので、美術大学の油絵科を志望しました。でも、合格できずに一浪してしまって。すると先生が『念のため版画科も受けておきなさい』という助言をくれたんです。その通りにしたら、なんとか合格することができました」
こうして有名私立美術大学に入学した村松さん。第一志望の科目ではなかったものの、版画科では様々な技術を学ぶことができたと言います。
そして大学4年生になった村松さんは、進路のことで大きく悩みます。
「本当は絵で生計を立てたかったけれど、とても狭き門なので、その道を歩むイメージがつかめなかったんです。だからといってやりたくない仕事につくのはイヤで。どうしたらいいか迷った結果、就職活動をしませんでした」
いよいよ仕事が決まらないまま卒業してしまう、そんなとき、村松さんはある求人を見つけます。
「浅草橋にアクセサリーを販売するお店があったんです。そのお店はスワロフスキーなど、本格的なものを扱っていて。わたしは昔からアクセサリーは好きだったので、そのお店にアルバイトとして入社しました。
担当したのはアクセサリーの金具売り場で、チェーンの切り売りや、ピアスの金具などの販売をしました」
はじめは接客が苦手だった村松さん。しかし、お客さんの年齢層が高く、優しい人が多かったため、少しずつ接客に慣れることができたのだそうです。
そしてお店で四年ほど働いた後、父から「ガラスの博物館」オープンの話をもらうのでした。
時には流れに身を任せて
――受験で第一志望に落ちてしまったり、あえて就職活動をしなかったり。
村松さんの人生は紆余曲折ありながらも、最後は自分の生きたい道を歩んでいる、という印象があります。
「そうですね。実は一浪したことはわたしにとってすごくショックで、一度気持ちがくじけてしまったんです。でも『絶対に油絵科に行かなきゃいけないんだ!』って思ってしまうと、心も体ももたなかった。だから、時には流れに身をまかせるのもいいかなって、そういう考え方をいつの間にか身につけていたのかもしれないですね」
――最後に、やりたいことが見つからない人にメッセージをいただけるでしょうか。
「わたしも就職活動をしないで大学を卒業するときは『これからどうしよう』ってすごく悩みました。その時考えていたことは、『とりあえず、やりたくないことはやらないようにしよう』ということです。
正直、ほとんどの人は自分のやりたいことなんてわからないと思います。どうしようか迷ったら、とりあえず楽しそうなことをやってみて、居心地のいい場所を見つけてみてはいかがでしょうか」
ガラスのフォトフレーム作りを体験!
ここで村松さんのワークショップを体験。今回は「ガラスのフォトフレーム作り」を体験しました。
まずは好きなフォトフレームを選びます。
このフォトフレームは「岩澤硝子」という工房で、職人が手作りしたもの。それぞれ形や厚さに微妙な違いがあるのが特徴です。
まずはフォトフレームにサインペンで下書き。村松さんが「見栄えの良い下書きの書き方」「おすすめのデザイン」などを教えてくれます。
そしてフレームをリューターで削る作業。
リューターで削る作業は簡単で、ほぼ下書き通りに彫ることができました。
村松さんの教え方はちょうどつかず離れずで、質問したいときにいつでも聞けるような距離感が心地よかったです。
そしてフォトフレームに写真を入れたのがこちら。(ネオジウムを使っているので、ガラスの色が変わってる!)
手作り感あふれる、素敵なフォトフレームになりました。
体験の最後にはコースターのプレゼントも!
ちなみに、別の日にグラス作りの体験をしたレポートもあります↓
博物館の秘蔵コレクションを拝見!
――ちなみに「ちいさな硝子の本の博物館」でしか見られない本ってありますか?
「大野さんという、戦後に『松徳硝子』に入社した職人さんのノートがありますね。53年間ガラス職人として働き、退職する時に書き残してくれたノートなんです」
そのノートがこちら。
手書きのイラストがユーモラス! 昭和史やガラス史が学べる貴重な一冊でした。
詳しくは村松さんのyoutubeチャンネルをチェック!
【休みの日には、同じ地域で活躍する知人のカフェやお店ををめぐるのが楽しみの一つ。 墨田にはおすすめのお店がたくさんありますので、体験の後に行ってみたい方はぜひ、聞いてみてくださいね。】
店舗情報
店名:ちいさな硝子の本の博物館
HP:http://glassbook.shop-pro.jp/
住所:東京都墨田区吾妻橋1-19-8-1F
アクセス:「浅草駅」徒歩6分
体験料金:2,750円~
リューター体験・グラス作りの予約はこちら↓
※1 大正11年創業のガラス工房。「うすはり」と呼ばれる、薄くて繊細なグラスが高評価。(博物館では、うすはりの販売はありません)
リューター体験では、松徳硝子で約30年前に製造された職人手作りのガラス(廃盤商品)に彫刻ができる。
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